Posted on 2008-10-22 by admin under [00] 序章.
企業経営の方針をどのようなステップで決めていくかは現実には少しのコツが必要となる。例えば新たに起業したばかりで、さして企業理念や目的も持たずに経営に当らなくてはならない場合も多い。目の前の1000万円の売上が予定通り獲得できれば、その先はどうにかなるだろうといった安易な流れで事業を始めるケースも散見される。各種異論は有ると思うが、私は個人的にはそういう起業の仕方は歓迎である。あまりにも長期的な綺麗事を標榜し、鳴り物入りで起業したベンチャーが最初の受注が取れずに資金繰りに奔走する例はよくある話だ。それに比べれば目の前の顧客に集中することで当座の資金繰りができる商売は、まずは回してしまえといういささか身勝手な助言と経営者の勢いに任せておき、その後のPDCサイクルを上手く生かせれば十分な規模の会社になる事例のほうが確率的に高い気がする。起業というのはそれくらい勢いの必要なことであり、理論とかけ離れた現実に直面するのは立身出世の人の話を聞けば明らかである。逆に綺麗に理論立ててすべてのことが上手くいくのであればベンチャー企業経営ほど過去の経験が全く生かされない例は人類の歴史上見たことがない。
この本ではそこに一つの解を、あるいはそのヒントになるべきことを提言したいと思う。この助言が一人でも多くのベンチャー経営者を救うことになれば幸いである。私がここまで書いたことにもヒントがあるが、起業したばかりの会社が最も大事なことは倒産の憂き目に合わないことである。倒産とは冒頭に書いたように資金繰りである。資金繰りというのは簡単に言えば現金を持って商売をしているかどうかであり、1人で元での掛からない商売をしながら1億円の受注を手に入れたところでその入金が10年後であれば10年間電気代も自分の食事代もしなければならず、物理的に餓死(=倒産)してしまう。これはやや極端な例だが、目先の現金ができる商売をプライドを捨てて選ぶということが第一である。製薬ベンチャーが臨床試験にまでいかずに倒産する例は枚挙に暇がないが、そこまでなる前に臨床実験の試験代行サービスなど、他社の製薬会社が必要としている付加価値の低いサービスをしても構わないわけだ。もちろん利益率が低いのが許されるわけではないが、将来得られる金の卵をいつまでも産めずに餓死するよりかは大幅にディスカウントして現金を回収し運転資金に当てるのは選択肢としてないわけではない。夢のエコカーを開発するベンチャーはその夢が夢のまま終るリスクと常に隣り合わせであるが、10年後のエコカーを狙うgoing-mywayよりもドラッカーが言うGoing-concernにしたほうが10年後の実現性も現実味を帯びてくるものである。
もしあなたの企業が夢を追って莫大な利益計画を立てているとしたらそれは立派な考えである。壮大な計画で世界をあっと言わせることはベンチャー精神の出発点であり、何ものにも変えることが出来ない人類の偉大な足跡になる。一方でその夢を支える日々の現金のやり繰りはどうなっているだろうか。夢で10年先を見通しているあなたの目は来月の現金収入も一応目には入っているだろうか。片目でチラリでも構わない。そういう観点で事業のポートフォリオを組んで欲しい。近視になる必要はないが、遠視にばかりなってもいけない。夢を追いつつ、今月、来月の現金をどのように工面するか。そのために単純で泥臭いけど付加価値の低い仕事で換金性の高い商売を並行して行っているだろうか?単一事業では単一の現金回収期間しか期待できない。長短、複数の現金回収期間をもつ事業を展開することであなたの会社の安定度とそれにまつわる銀行、投資家からの信頼はゆるぎないものになるであろう。
Posted on 2008-10-22 by admin under [00] 序章.
【PDCサイクル】
以上の経営理念・経営計画・経営戦略・経営戦術・オペレーション、というのが経営のブレイクダウンのプロセスである。そしてこれらのブレイクダウンプロセスを上手に回すのがPDCサイクルによるフィードバック制御である。Plan、Do、Checkの3ステップによって経営が順調に進んでいるかを確認することができる。Planは、経営理念~経営戦術までを示し、Doがオペレーションを意味する。そこで刈り取った成果をCheckして管理・監視し、経営目標が実現できたかどうかを各段階で見てフィードバックを掛けていくのである。このためには現場の状況を経営層が知るためのツールが必要であり、最近ではIT化によってこの補助がなされている。しかし、企業経営の本質である「環境適合」は現場レベルの小さな変化を熟知していないと感じ取ることはできない。そうな
ると結局は経営者が現場をつぶさに見ることで本質にたどり着くことができるというのが自明的な考え方だ。
長くなったがここまでが基本的な経営のステップであり、経営実行の最もオーソドックスなプロセスである。経営における要諦を再確認しておくと、最も重要なのは顧客の創出であることが言える。顧客の創出とは、自社の提供するサービスや商品の価値を納得し、お金を払ってくれる人を増やすということである。新たに増やすでもいいし、これまでよりも購買頻度を上げてもらうというのも顧客の創出に通じる。また、顧客の創出は需要の創出と言い換えることも出来る。そのサービスや商品を欲しい人が増えるということは需要が増えるといえるわけで、需要が増えれば価格は安定的になり収益性も上がる。サザンオールスターズの解散コンサートのチケットがオークションで高値で取り引きされるのと同じで、需要が強烈で、供給が一定ならば価格は必然的に高くなる。経営の最終目標が理念の実現ならば、経営の中間目標はシンプルに利益である。そのためには顧客の創出と同時に、自社でなければ供給できないことを追及することである。
新しい需要を発見したとしても、その業界への参入障壁が一切無ければあっというまに価格競争に陥り、せっかくの需要増も利益に反映できない。そうならないためにも自社の供給にどのような特徴があるのかを明確に定義し、焦点を絞りつづけることが日々の経営の中に求められる。自社がパソコンを組み立てる会社であれば、いまやパソコンの組立など個人でもできることなので、本質的にそのままの状態では付加価値が生まれない。しかしパソコン組立のための教室を開いたり、普通の人が組み立てられないキットを組み立てるのであれば、その技能を修得することが自社の強みを際立たせることが出来る。もしくはキットを開発し、小学生でも組立が出来るようにして販売するのであれば、そういうキットを集める商品開発力が本当の意味でのその企業の強みになるかもしれない。
このように自社の強みを明確化してそのポイントをフォーカスし、絞込み、さらにユニークな箇所を伸ばしていくことは非常に重要である。SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威)という分析手法では、自社の強み、弱みを明確化して経営戦略を練るということが頻繁に行われている。この際の「S=強み」では、現状の強みのみをクローズアップして記載する傾向が強いが、実際には強みを経営目標に照らし合わせた際にさらに経営目標の実現を加速するためには、「どういう強みの強化」が必要なのかを明確にする必要がある。SWOT分析ではそこまでは行われていないが、現実には現存する強みを整理しただけで計画/あるいは戦略を実行できるのは稀で、「強みをさらに強化すること」で戦略の実現性が高まるものである。
Posted on 2008-10-22 by admin under [00] 序章.
ここから先は現場レベルに落とし込まれていく。
【経営戦術】
経営戦術とは、実際に戦略を実行する際にその実効性を高めるためのツールである。目の前にある課題を解決するために最も少ないリソースで最も多くの効果を上げる手法を選択することが経営戦術である。こちらも戦略と戦術の混同がよく見受けられる。戦略とはあくまでもアウトライン、ガイドラインであり、実際に現場でそれを実行に移すのは戦術の良し悪しが決め手となる。例えば売上を上げるために販促をするにしても、営業マンの訪問回数を増やすのがいいのか、チラシを撒くのが有効なのかといった手法は、リソース(人・物・カネ)と成果(売上)に直結する命題である。一般的な戦術とは、経営戦略が無くても機能するが戦術の頭に「経営」とつけるからには、経営戦略との整合性が取られていなくてはいけない。例えば支店に落とし込まれた目標を効率よく達成するためには常に戦術に磨きを掛けていることが重要だが、一方でそれが必ずしも全社の経営戦略と整合性を持って策定されているかということに関してはチェック機能がない場合が多い。この戦略と戦術の分離が企業の目標達成度の大きな要諦になる。なぜかというと、ある程度の規模の会社であれば、経営戦略までは経営陣が決めることが多いが、経営戦術となると現場のマネージャーの裁量に掛かってくる。また、経営戦略をよく理解したマネージャーがその戦略を咀嚼して経営戦術を練らないと単なる戦術にしかならず、自己満足の戦術が経営戦略の実現を邪魔することもありうる。よってこの段階では優秀なマネージャーがどれほど居るかがポイントとなり、どの企業でもいわゆる「ミドル層」が業績を左右すると言われる所以である。
【オペレーション】
経営戦術が決まったら今度はそれを現場の作業に落とし込まなければならない。現場に考える能力を期待するかしないかは企業の経営方針によって異なるが、基本的にマネージャーの考えやポリシーが現場との間に乖離がないと考えるならば、現場は作業者に徹したほうが効率がいい。経営戦術を各メンバーに役割として割り振り、実行に対する予実管理を行う。この作業レベルに落とし込むところも、経営戦術の実効性に大きな影響を与えることが多い。これには2つの側面があり、一つはマネージャーと作業者の成果に対する考え方の違いである。マネージャーは一般的に実績に対する成果報酬のため、作業量に対する労働の弾力性は無限大となる。一方で作業者は一日8時間の労働時間やそのオーバータイムに対して時間給をもらっているため、作業量のバラツキに対する労働負荷弾力性や成果給の要素が少ない。そこでその作業量の平準化と、専門作業の確立を行う必要がある。二つ目の問題はこの作業の標準化、及び割り振りのメンバー間の平準化である。これにはマネージャーの現場作業に対する理解や現場メンバーの力量の見積に関するセンスが問われる。一般的に生え抜きのマネージャーならばその作業量の見積が概ね正しくなるが、外様で外の部門から来たマネージャーは現場作業に対して理想論、正論が先行してしまい、標準化・平準化が適切に出来ない可能性がある。作業が常に煩雑であると、作業効率が低下する。例えば図版の制作作業であれば、レイアウト作業を一人の専門家がやるほうが統一感の面でも作業性の面でも望ましい。それを分からないマネージャーが業務を割り振るのは現場にとっては悲劇である。さらに追い討ちを掛けるのが近年のIT化の進展である。IT化により、単純作業は自動化できる余地が多くある。しかしマネージャーのレベルによってはIT化による効率度合いが全く分からないため、膨大な作業量を目の前に、困惑するマネージャーと、そんなの1分で出来ると見積もる若手社員に世代の断絶が見受けられる。