企業経営の方針をどのようなステップで決めていくかは現実には少しのコツが必要となる。例えば新たに起業したばかりで、さして企業理念や目的も持たずに経営に当らなくてはならない場合も多い。目の前の1000万円の売上が予定通り獲得できれば、その先はどうにかなるだろうといった安易な流れで事業を始めるケースも散見される。各種異論は有ると思うが、私は個人的にはそういう起業の仕方は歓迎である。あまりにも長期的な綺麗事を標榜し、鳴り物入りで起業したベンチャーが最初の受注が取れずに資金繰りに奔走する例はよくある話だ。それに比べれば目の前の顧客に集中することで当座の資金繰りができる商売は、まずは回してしまえといういささか身勝手な助言と経営者の勢いに任せておき、その後のPDCサイクルを上手く生かせれば十分な規模の会社になる事例のほうが確率的に高い気がする。起業というのはそれくらい勢いの必要なことであり、理論とかけ離れた現実に直面するのは立身出世の人の話を聞けば明らかである。逆に綺麗に理論立ててすべてのことが上手くいくのであればベンチャー企業経営ほど過去の経験が全く生かされない例は人類の歴史上見たことがない。
この本ではそこに一つの解を、あるいはそのヒントになるべきことを提言したいと思う。この助言が一人でも多くのベンチャー経営者を救うことになれば幸いである。私がここまで書いたことにもヒントがあるが、起業したばかりの会社が最も大事なことは倒産の憂き目に合わないことである。倒産とは冒頭に書いたように資金繰りである。資金繰りというのは簡単に言えば現金を持って商売をしているかどうかであり、1人で元での掛からない商売をしながら1億円の受注を手に入れたところでその入金が10年後であれば10年間電気代も自分の食事代もしなければならず、物理的に餓死(=倒産)してしまう。これはやや極端な例だが、目先の現金ができる商売をプライドを捨てて選ぶということが第一である。製薬ベンチャーが臨床試験にまでいかずに倒産する例は枚挙に暇がないが、そこまでなる前に臨床実験の試験代行サービスなど、他社の製薬会社が必要としている付加価値の低いサービスをしても構わないわけだ。もちろん利益率が低いのが許されるわけではないが、将来得られる金の卵をいつまでも産めずに餓死するよりかは大幅にディスカウントして現金を回収し運転資金に当てるのは選択肢としてないわけではない。夢のエコカーを開発するベンチャーはその夢が夢のまま終るリスクと常に隣り合わせであるが、10年後のエコカーを狙うgoing-mywayよりもドラッカーが言うGoing-concernにしたほうが10年後の実現性も現実味を帯びてくるものである。
もしあなたの企業が夢を追って莫大な利益計画を立てているとしたらそれは立派な考えである。壮大な計画で世界をあっと言わせることはベンチャー精神の出発点であり、何ものにも変えることが出来ない人類の偉大な足跡になる。一方でその夢を支える日々の現金のやり繰りはどうなっているだろうか。夢で10年先を見通しているあなたの目は来月の現金収入も一応目には入っているだろうか。片目でチラリでも構わない。そういう観点で事業のポートフォリオを組んで欲しい。近視になる必要はないが、遠視にばかりなってもいけない。夢を追いつつ、今月、来月の現金をどのように工面するか。そのために単純で泥臭いけど付加価値の低い仕事で換金性の高い商売を並行して行っているだろうか?単一事業では単一の現金回収期間しか期待できない。長短、複数の現金回収期間をもつ事業を展開することであなたの会社の安定度とそれにまつわる銀行、投資家からの信頼はゆるぎないものになるであろう。

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